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リレーエッセイ

フィンランドへの旅

日本大学 理工学部 柴田文男

 今年の夏は、猛暑とゲリラ豪雨であったが、昨年の夏は北欧諸国へ出張中(約1ヶ月間)だったので、毎日が初夏のような気候の中で、美しい北欧諸国の自然を満喫できた。また、その間フィンランド共和国のラッペーンランタで開催された北欧レーザ溶接会議に出席する機会を得た。
 フィンランドは、国土面積(約34万平方キロ)はほぼ日本と同じながら人口は520万人と少なく、北緯60度から70度に位置することから、冬は苛酷な自然と向き合わなければならない。しかし、夏は“森と湖の国”の愛称どおり爽やかな季節であった。

 ところで近年フィンランドは“学力世界一”の国として世界中の教育関係者から熱い視線を浴びている。小生も教育者の一人として大いに関心があった。フィンランドも日本同様、農業国から工業国へ変貌したが、今や世界のIT産業の先端にいる。その理由の一つとして教育力の向上であると言われている。学校教育と社会の関連は非常に深く、その根底には福祉の思想がある。小学校から大学までの授業料は無料で、高校までの教材や給食、通学費など様々な学習環境が無料であることなど、福祉社会の中で教育の成果が社会のものとして生かされている。一方、教育まで格差が広がりつつある日本、知識の受容に終わっている教育事情を考えると日本の子供達の未来にたちこめる暗雲を考えずにはいられない。フィンランドの子供達は自分自身のために学ぶという普通の教育に徹底している。日本ではこの普遍的な考え方が置き去りにされていないか、よく考える必要がある。

 さて、北欧レーザ溶接会議では、主にレーザ溶接法と他の溶接法を組み合わせたハイブリッド溶接に関する発表が多かった。この溶接法では、レーザの特徴である高速で深溶込み溶接を活かしつつ、またレーザの短所である溶接材料の突合せ面の精度やコスト面の問題を、アーク熱源などを利用することで優れた生産性が得られるため急速に実用化され始めている。我国でもレーザ・ハイブリッド溶接法については盛んに行われているが、溶接法の組み合わせによっては溶接条件の選定など、まだまだ現状では問題点も多いと思われる。しかし、我国の研究者や技術者の努力により、今日の溶接技術の発展は目覚しい。今後も人類の生活を安心・安全(どこかで聞いたような言葉?)で豊かなものとする工業技術の使命に立って、鋳物材料の溶接・接合の益々の発展が望まれる。