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リレーエッセイ

ルツボの進化について

日本ルツボ株式会社
鋳造営業部  朴 龍雲

 ルツボは中国語の漢字では「坩埚」と書くが、日本語では「坩堝」と書く。何かが違いがあって辞書を調べたところ、中国で漢字を簡略する前は、今の日本と同じ漢字を使っていたことが分かりました。坩堝は中国と何か繋がりがないかと思って、かつて北京博物館に足を運んだことがあります。そこには3,000年前に造られた坩堝が展示されていました。言い換えると中国での坩堝の歴史は、今から3,000年前にも遡ることに驚きました。また世界では、坩堝は5,000年以上の歴史を持ち、人類に様々な文明をもたらして来ました。現在でも、自動車、機械、IT機械、電気機械、公共土木、住宅関連、環境関連部品の鋳造に欠かせず、まさに一国の産業を支える器です。数千年前の当時、人々は坩堝を用いて鐘などの銅合金鋳物を主に造り出した。私が見た北京博物館に展示されている3,000年前の坩堝形状は、今の形状とほとんど変わっていません。当時の坩堝は、クレーボンド材質で仕様も簡単で、小型であり、加熱方法も薪などを坩堝の周りに詰込み、風を送って坩堝を熱して金属を溶かしていたようです。現在の坩堝に取って変わるのは、産業と技術の発展による坩堝の材質と新たな加熱方法によります。20世紀からカーボンボンド材質とその後のカーボンボンド+SiC+黒鉛、石英、アルミナ材質などの開発により、坩堝の製造は飛躍的な発展を遂げ、大型坩堝の製造が可能になり、坩堝の用途も多様化されて来ました。アルミニウム合金用、銅合金用、鋳鉄用そしてシリコン溶解用など多様化され、またその仕様も、細分化されています。例えば、アルミニウム合金溶解用低温用坩堝は加熱方法(ガスまたはオイル)の違いによって坩堝表面に塗布するグレーズの組成が異なり、さらに使用用途によっても溶解用と保持用坩堝に分けられます。尚、炉中でフラックス処理する、しないよっても坩堝の材質とグレーズの組成が変わっています。その他、坩堝の成形方法も昔と変わり、CIP成形になり、均一高圧成型することで坩堝の寿命もかなり伸びるようになっています。

 なぜ、昔から人々は坩堝を愛用して来たのでしょうか。私は坩堝の魅力を以下のように考えます。まずは、形状が単純で、炉体設計が簡単であり、炉体形状がシンプルで製造コストがかなり安いです。また、坩堝は取り扱いが簡単で、誰にでも操業できます。なお、坩堝の素材の純度を高めることで、高純度の金属を精錬することが可能であり、高付加価値の商品を造り出すに欠かせない物になっています。特に近年は半導体用単結晶(高純度)シリコン及び太陽電池パネル用多結晶シリコンも、坩堝で溶解、精錬することになっています。

 長年、私達の暮らしを支えて来た坩堝に何か新しい用途がないかとして私は、入社してからこれまでずっとその開発に励んで来ました。その結果、アルミニウム生切粉をロータリキリンで乾燥しなくでも簡単に切粉を再生できる、「エコカバー1」と言う金属リサイクル炉の開発に成功しました。この炉の特徴は坩堝炉でしかできないもので、歩留まりは反射炉溶解よりも2~3ポイント高く、煙も出せません。これを土台に、樹脂付き、油付きブロック状アルミニウム屑を前処理なしで高歩留まりに再生できるリサイクル炉:「エコカバリー2」の開発にも取り組んでいます。

 坩堝は原初以来その形を変えませんが、その素材及び製造技術は日進月歩であり、最先端の技術により進化を続けます。中国を初め、アジア諸国での経済発展が急速に進む今、様々な産業で大量の金属部品が必要とされ、その溶解・加工のため坩堝の更なる高品化が求められています。私はこれからも坩堝は、さらに人々に愛用され、新しく生まれ変わり、進化し続けると信じています。