会員向け情報

リレーエッセイ

零細企業と精神論

株式会社 永瀬留十郎工場  永瀬重一

永瀬 重一 氏 昨年の後半から仕事が増えてきて、年が明けてからは『景気が持ち直してきた』・『今年の後半からは忙しくなる』という明るい見通しが聞こえてきますが、われわれ零細企業の現場では、忙しさだけで利益につながらないまま、どんどん疲弊していっている実感しかありません。
 確かに、スマートフォンの普及などで関連業界からの受注は増えてきていますが、いずれも短納期で、残業・休出で対応しても、その代価(特急料金)は認められず、人件費の増加分は負担せねばならない『利益なき繁忙』の状態です。
 はやりの『在庫レス』・『多品種少量生産』がロット数を減し、生産効率は悪くなり原価が上がるが、単価は以前のまま(コンビニだって、スーパーよりは売値が高いのに!)。操業率は120%を超えてもジリ貧で、景気が持ち直してきても実働工場の廃業・倒産が続いています。

 昨今のように多少仕事が出てきたとはいえ、リーマンショックという悪夢を経て将来を考えると、簡単に正社員を雇うという選択肢を選べず、かといって派遣社員を導入することの是非を問われている状況では、現有戦力の残業・休出で『なんとか、しのぐ』という方向で考えざるを得ません。その点は、幸いなことに従業員の理解も得られていますが、いつまでも『ただ、頑張る』が続くはずもありません。
 大企業では、労働者を守る為、残業時間の管理を徹底できるが、中小企業では残業・休出が強いられる。客先の無理な納期にも「転注」という恐怖から必死に対応するべく日々苦闘しているのが実状です。
 私は、鋳物を作るということが面白いと思ったので、父の後を継いで鋳物屋になりましたが、昨今の情勢では事業を続けていくことに疑問を覚えます。自分の代はともかく、後継者に『事業を続けて欲しい』とはとても言い出せません。ものづくりに携わる“楽しさ”を如何にアピールしても、結局、労働に見合うものが得られなければ、良い人材は集まりません。精神論だけ唱えても、誰もついてきてくれません。就職において、常に公務員の人気が高いという状況を見れば、いかに「ものづくり」関連に魅力が無いかが歴然です。(インターンシップで、高校生が弊社工場に来ておりますが、新規採用につながりません。「鋳物作りが面白い」と言ってくれても、給料が安ければ、結局は、来てくれないのです。)

 そんな中、最近の慢性的な材料高騰、さらに太陽光発電促進の為の電力買い取りの負担(現政権が俄に表明した温室効果ガス削減目標)を我々大口需要家(零細なのに電力だけは大口!)がしなくてはならないということも加わり、ますます利益の出ない体質に拍車が掛かる状態です。マスコミは、「何か光る技術を持っていれば、中小企業でも頑張っていける」という論調ですが、前述のように構造的な人材不足、人手不足、資金不足の中小企業の何軒が対応できるのでしょうか?対応できないところは、さっさと退場してしまえということなのでしょうか?我々の頑張りだけでは不可能なことも、国の政策の転換で可能になると考えます。例えば(1)景気の変動に対して、柔軟に労働力を変化させられる雇用制度、(2)零細企業の後継者が事業を継承する際の税法上の優遇、(3)温室効果ガス削減目標の撤回・現実的な対応など。いずれの項目も、それが出来れば企業の負担が減り、それだけ従業員の頑張りに報いることが出来るものです。

 わが国は、資源小国です。国外から材料を調達して加工し、国外に提供して、その対価を得ない限り国を支えていくことが出来ないのは明白です。国は『ものづくりが大事だ』、日本の『ものづくりは中小企業が支えている』と言う以上、もっと、やる気を出させる環境、いや、最低限やる気を削がない環境を整えてほしいと思います。どうも(目先の選挙のためとは言いませんが、)中小企業の競争力ややる気を削ぐとしか思われない愚策を繰り返している様に見えるのは私だけでしょうか。我々、中小企業も現状に甘えず、これからも技術の研鑽をし『ものづくり』に励みますが、“思い付き”や“場当たり的”と思われるような政策(例えば、「各種補助金や関税保護」、「法人税を減税」、赤字経営が続く零細企業のどれくらいが恩恵をこうむるのでしょう?)では、元も子もないではありませんか。

以上、現場にいるものとして、日頃思っていることをつづってみました。