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鋳物用語解体新書

鋳掛け:Tinkering、Burning on

 融かした金属を欠陥の生じた個所に注入して凝固・接合させる技術で,一種の溶接技術である。
鋳物の引け巣などの欠陥部を補修するために古くから行われてきた。本鋳掛けとも呼ばれる。鋳掛けを行うときは接合部を予熱しておき,また鋳掛け後は局部または全体の焼きなましを行うのが普通である。現在では,溶接技術の信頼性が著しく向上したため,アーク溶接,ガス溶接などによって補修されることが多い(出典:【梅田 高照】世界大百科事典第2版)。

 また、鋳造された鍋、釜などの鋳物製品の修理を行う職業に、「鋳掛け屋」または「鋳鐵師」との表記も見られる。江戸時代から昭和期にかけての家財道具である鍋、釜は鋳造によって作られていたが、当時の鋳造技術では鬆(ス)が入りやすく、またひび割れ等により穴が開くことがあった。その一方、「月夜に釜を抜かれる」といった諺にみられるように、鍋釜は泥棒が真っ先に狙うほどの大変な貴重品であった。したがって、穴が開いたとしても容易に捨てたり買い換えたりするわけにいかず、修理しながら使っていたのである。その修理業者が鋳掛け屋である(「守貞漫稿」より)。

 語源は金属を「鋳て」(融かして)「かける」から「いかけや」と説明されている。

 江戸時代に鋳掛け屋なる商売があった。ということは、この時代には、庶民に鍋釜の鋳物が普及していたことになり、高価で大事な物であったことも分かる。低融点の合金と木炭、そして携帯鞴をかついで「鋳掛け~、鋳掛け~」と街中を流す夫婦連れの修理屋、長閑な?情景を想像できる。また、英語のtinkeringに「へまな職人」、「へたな修理」、「いじり回す」などの意味があるのが面白い。鋳物の修理技術が未熟で、失敗も多かったのだろう。今なら電気ごてやガスバーナーでの「ろう付け」に相当するのだろうか。

(H.K)
(2012年11月)