関東支部のご案内
年頭の挨拶
不況時の「ものづくり」の技術開発
支部長 佐藤 健二
新年おめでとうございます。
新たな年を迎え,会員の皆様におかれましては,今年が健康で,一層の飛躍の年になりますよう心からお祈り申し上げます。
2009年は,2008年秋の米国のサブプライム問題に端を発した世界同時不況の影響から,日本国内の鋳造,ダイカスト業界に大きなダメージを与え,業界全体が低迷しました。1月~2月にかけて生産量は底打ちし,その後,徐々にではありますが,生産量が上昇し,年末には一部の企業で2007年の80%程度まで回復したとの話も聞きます。ただ,街の鋳物やダイカスト企業に聞きますと,まだ,最盛期の5・6割程度までしか回復していないという話もあります。今年は少しずつですが,生産量が伸びているようですので,このまま続いてくれることを祈っております。
この回復は中国を主体としたアジア地域の需要拡大によるアジアの製造業の活性化と,日本政府が行った種々のエコ政策に依存していると言われております。エコ政策については,駆け込み需要を生んだ要因が強く,この後,どうなるかとの不安もあります。
このような環境を考えますと,今後,ますます業種間,企業間の競争が激しくなり,これまでと同等以上に低価格・短納期体制に確実な品質保証が要求されるシステムが進むと考えられます。一旦構築された生産・供給システムが社会に定着すると,なかなか元には戻りません。低価格化は業界にとってかなり厳しい状況を生むことになります。
例えば,低価格のため,材料費,製造工程の適正化,後加工の削減など様々な工夫を行い,何とか適応できるようになったとしても,2007年頃に経験した投機筋による材料,エネルギー価格の高騰によってギリギリの利益率で製造していたものが一気に飛んでしまいます。また,アジア地域には,日本の技術者が指導している技術レベルの高い企業が多く育って来ているため,価格競争となった時点で大きな脅威となります。
それでは,どうしたら良いか?
一般には,「このような需給環境に適応すること」,「主力技術を強化する」,「独創的な発想で開発を進めること」などが言われております。ここで,もう少しじっくり考えますと,鋳物とはどのような技術だったのかを見直すことが重要だと思います。つまり,鋳物の持つ特徴を活かした高品質で複雑形状の製品を造ることに気付くでしょう。低価格化には,継続的に高い技術力の求められる製品を造り上げていくことが必要だと考えます。
昔から,日本には「ものづくり」にこだわって培った技術とそれによって育て上げられた「職人」や「技術屋」という人材がおります。このシステムを着実に継承していれば,継続的な技術の発展がなされたはずです。しかし,1990年代の不況を契機に効率と利益のみを追求する風潮が続きました。大分前から言われていることですが,このような社会的価値観の違いから,「昔の職人」とは違った気風の「現代の若者」が多くなりました。「親方の拳固」は技術に対する厳しさを教え,人を育てる愛情とは感じ取られず,単に古くさいやり方で,面倒だと受け止められがちです。このような中で仕事に興味を持たせ,「ものづくり」の面白さを教え,鋳物造りを続けて行かなければなりません。しかし,この中でも一握りのきらりと光る原石があるはずです。この人材を見つけ,次世代の鋳造・ダイカストに繋げていくため,育てていくことが我々の役割と考えます。
古代では,鋳造は他の技術を凌駕する最高の技術でした。その後,鋳造で造るには困難な形状と機能が求められ,より確実に簡単に造れる他の技術も同じように発展していきました。社会の需要による技術の棲み分けが進んできました。現在もプラスチック材料の発達が著しく,一部の部品や部材では金属からの材料転換が進んでおります。たとえ材料転換が行われたとしても,鋳造にプラスαの機能や付加価値があれば,直ぐにひっくり返すことができると思います。日本の鋳造技術に対する感性を引き出し,技術需要を直視し,新たな技術に挑戦する,いわゆる職人の遊び心で望めば,他に先んずる継続的な技術革新が可能になると思います。高機能・高品質化と低コストの二者択一から,さらに付加価値を付け,低コスト化を実現していく選択もあるでしょう。
最後になりますが,昨年5月29日から早稲田大学の西早稲田キャンパスで第154回全国講演大会が開催されました。最初の頃は前年からの不況の影響で参加者が集まってくれるだろうかとの心配がありました。さらに追い打ちをかけるように,開会の直前に発生しました「新型インフル」の影響で,学内から一人でも感染者が出ますと,即時に開催中止になるという薄氷を踏むような状況にありました。このような中で,大会実行委員を始め,関係する会員の皆様のご尽力により,多くの参加者が得られ,また,大会の運営も何とか無事に終わらせることができました。実行委員を始め,工場見学先の企業の方々,関係者の皆様のご協力とご支援に厚く御礼申し上げます。
(平成22年1月)