関東支部の活動

研究

第17回加山記念講演会

鋳鉄鋳造方案の基礎 ~間違いやすい考え方や理屈~

松田技術士事務所 松田 政夫 氏

松田 政夫 氏 平成17年4月22日(金)に日本鋳造工学会関東支部 第17回加山記念講演会が日立金属高輪和彊館で開催されました。今回は、松田技術士事務所 松田政夫氏により「鋳鉄鋳造方案の基礎~間違いやすい考え方や理屈~」と題して講演していただきました。
 松田先生は、いすゞ自動車(株)に30年勤続、帝京大学理工学部教授として10年勤続された後、松田技術士事務所を開設され現在に至っております。その間、鋳造にとって非常に重要な鋳造方案について研究を推進されました。今までは、鋳造方案は経験やノウハウが重視され、学問として系統的に行われておりませんでした。そこで先生は、生涯にわたり鋳造方案について、実験による確認を交え理論を構築して研究を進めてこられました。その成果は「鋳造工学」第77巻(2005)1号~6号に連載講座としてまとめられています。

 この日の講演では、「鋳鉄鋳造方案の基礎~間違いやすい考え方や理屈~」と題し「1.鋳型内溶湯の流れと湯口方案の考え方」、「2.押湯の考え方と理屈」の2部構成で、講演をして頂きました。その中からいくつかをご紹介します。

1. 鋳型内溶湯の流れと湯口方案の考え方では、

  1. Bjyoruklund, Trenchleの「鋳込み時間は加熱度の2乗に比例させる」や、松田の「鋳型内での最長流動距離に半比例させて鋳込み時間を短くする」などはおかしい。
  2. 鋳物ごとに最適鋳込み時間の範囲はあるとしても、選択肢は広く、作業性、経済性を優先して決める方がよい。
  3. 上向きアール湯道での遠心力や、湯の流れと逆向きの堰でのノロの除去は考えられない。
  4. 溶湯の粘性係数は水より数倍大きく、水モデル実験はおかしいというのは間違いで、湯口系の流れは粘性系ではなく慣性系の流れのため、運動粘性係数で考え、それは1300℃以上の溶湯ではむしろ水より小さくなる。
  5. 湯口比で湯口系の各断面積を求める方法では、湯口系の流れを見誤ることがある。湯口比は断面積決定のための入力値ではなく、決定結果と考えるべきである。
  6. 堰の流速をおそくするのは、鋳型壁の損傷を避けるためだけでなく、湯口系の押湯効果を生かすことに重要な意味がある。
2. 押湯の考え方と理屈では、
  1. 1次収縮(主に液体収縮)と2次収縮(凝固末期の収縮)は、発生時期、発生機構が異なるのに、区別しないで扱われる傾向がある。
  2. 押湯からの供給量は、収縮量と膨張量の差で良いというのは、粘性の変化を無視した考え方である。これは「凝固時の収縮量ΔV=1次収縮量‐共晶凝固膨張量+2次収縮量となるから、押湯は差し引きΔV分を補充すればよい」との見解がある。これは危険がある。1次収縮でできる空洞は押湯によって小さくされ、残りが共晶凝固膨張による溶湯の湧出で埋められることになるが、湧出溶湯は固相を含んだ溶湯であり粘性はかなり高く、ほとんど鋳型膨張に費やされ埋めきれない可能性が考えられる。そこで、品質保証のためには空洞ができないよう、1次収縮の期間中押湯から溶湯補給を中断してはならないと考える。それは、2次収縮で発生するポロシティーを、それ以前に起きた共晶凝固膨張で補うことは一層困難と考えられる。つまり、共晶凝固膨張を弾性エネルギーとしてどこかに蓄積するには、弾性体でない砂型にその役目は無理だからである。
  3. 凝固の進行は、過冷度一定の下で「固相増加速度一定、すなわち凝固セル体積sの増加速度一定」という成長であって、「セル半径rの成長速度が一定」ではない。凝固セル半径rの成長速度dr/dtを一定と仮定すると、セル体積s=(4/3)πr3, ds/dt=4πr2dr/dt であって、セルの体積増加速度はr2に比例し、固相体積が急増することになる。それは凝固潜熱放出の急増をもたらし、温度の急上昇、小さい過冷度での熱収支均衡となるはずである。しかしそうならないから「dr/dtを一定」の仮定は誤りである。著者は一方向凝固実験から「一定の過冷度で固相は一定の速度で成長する」と言う結果が示され、この成長速度は線成長速度ではなく固体体積の増加速度と考え、「一定の過冷度で一定の固相体積の増加速度で成長」とすれば、熱収支条件に問題もなく凝固セルの成長に適応できる。この「一定の体積増加速度で成長」は大和田野の実験データからも証明されている。
  4. 誤解されていたネズミ鋳鉄の凝固形態。
    イ)完全融体、完全固体が同一断面に同時に存在することはない。
    ロ)中心は、凝固末期急冷し過冷組織ができる。逆チルは中心が大きな過冷度の下、急速に凝固するため。
    ハ)ねずみ鋳鉄は皮殻形成型凝固(スキン型)とはいえない。
  5. 厚肉鋳物は、薄肉鋳物より高マッシー型凝固と考えがちであるが逆である。φ40とφ20で考えると、φ40は表面と中心の固相率比(fc/fb)が小さく、スキン型凝固に近い。

 以上、色々の事例の中から講演の一部を紹介しましたが、これまで積み重ねてこられたことを一人でも多くの鋳造関係者に伝えたいという熱い思いが伝わってくる講演でした。また、なかなか機会がなく実験で検証しきれずにいる仮説がいくつもあり、学会でこのような研究を続けてくれることを望んでおられました。

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