関東支部の活動

研究

第19回加山記念講演会

溶湯使いになろう

日本軽金属株式会社 北岡 山治 氏

北岡 山治 氏 平成19年4月20日(金)に日本鋳造工学会関東支部 第19回加山記念講演会が日立金属高輪和彊館で開催された。今回は、日本軽金属株式会社の北岡山治氏に「溶湯使いになろう」とのテーマにて、アルミニウム合金溶 湯と鋳物の品質に関する系統的な知見についてご講演頂いた。

 北岡氏は40年以上に亘ってアルミニウム合金の溶解、鋳造、凝固に従事され、固液共存領域における合金の挙動と鋳造性の関係の解明、NaやSrの添加技術の開発、またKモールド法の提唱者としてよく知られている。このKモールド法は、介在物定量化法の一つで国内学協会、関連産業はもとより海外でも高く評価されている。

 講演では、(1)アルミニウム合金の凝固、(2)鋳造性の理解と各種成分の影響確認、(3)溶湯品質(ガスの影響)、(4)溶湯品質(介在物の影響)の4項目に分けて詳説された。

 (1)については、固液共存状態での合金の強度や収縮挙動から、Al-Si状態図の液相線と固相線に囲まれた領域を準液相、準固相域に分類出来ることを提案、これにより「鋳造性」(即ち、溶湯の流動性、外引け性、ざく巣やポロシティ発生傾向、凝固割れ感受性等)が整理出来ると分かり易く説明された。即ち鋳造性は、初晶デンドライト形状が主支配因子であることを強調された。

 (2)については、Na、 Sr 等の添加が合金の収縮挙動に影響を及ぼし、結果として鋳物内部の引け巣発生挙動に影響を及ぼすことや合金の種類や溶湯量によって添加したNaの損耗の仕方や効果が異なる点に留意が必要なことも説明された。

 (3)については、絶対湿度が溶湯中に溶け込む水素の濃度に影響があり、絶対湿度(水蒸気分圧mmHg)は気温(℃)×相対湿度(%)/100で近似値がえられ、目安になる。相対湿度も結露現象などにより,影響が大きい。重油や都市ガス溶解など溶解法と溶湯保持時間によってガスの含有量が変わることや、ガス量がポロシティの発生、ひいては強度や伸びにどの様に影響するかを実験的に示された。Sr添加はNa添加よりも水素を吸いやすい点に留意が必要なことも述べられた。脱ガス法についてもデータが示された。

講演会の様子 (4)については介在物が機械的特性、とりわけ破断伸びに与える影響が大きいことが述べられた。近年、伸びの最低値保証が求められる中で、溶湯中の介在物量の迅速試験法としてKモールド法がますます注目されており、自動測定装置も開発されている。溶解原料(インゴット)の油の付着具合や、切り粉を含むかどうかで、介在物量が変化するデータが示された。脱ガス装置:「静波」のプロセスやフラックス処理は介在物除去に有効である。ルツボ内の位置による溶湯の清浄度にも留意が必要である。展伸合金が半連続鋳造されるまでのプロセスと、鋳造合金が鋳込まれるまでのプロセスを比較すると、溶湯が「滝」のように受け渡されるプロセスが、展伸材鋳造プロセスでは存在しないが、鋳造合金では何度も存在する。介在物の発生を制御するためには溶湯を移送する過程についても留意すべきであると述べられた。

 以上、アルミニウム合金溶湯の各種特性について系統的な解説がなされた。活発な質疑がなされた。一部の意見として、アルミニウム合金溶湯や鋳造性についてこのような系統的な知見を自らの実験データを持って解説出来る方は世界的に見ても皆無であり、是非、この内容を支部で解説記事、できれば出版頂きたいとのコメントを頂いた。

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