関東支部の活動

研究

日本鋳造工学会関東支部 第84回講演会

新しいものづくりの可能性と実現に向けた果敢な取り組み

「新しいものづくりの可能性と実現に向けた果敢な取り組み」~ダイカストによる発泡アルミニウム金属成型と高強度鋳鉄開発の事例~をテーマに、お二人の講師にご講演いただきました。その概要を以下にまとめて報告します。

ダイカストを利用した発泡金属の紹介
群馬大学大学院 工学研究科  半谷 禎彦 氏
久保 公雄 氏

 ポーラスアルミニウムは通常発泡剤を利用して作製されるが、アルミニウム合金ダイカストに発生するガス欠陥を気孔生成に積極的に活用することで、高価な発泡剤を利用することなくポーラスアルミニウムを作製できる.ダイカスト条件を種々変えることでダイカスト内部のガス量を調節可能で、ポーラスアルミニウムの密度(軽量性)を制御でき水に浮くものも作製できる(現在気孔率75%程度)。得られたポーラスアルミニウムは、発泡剤を利用したポーラスアルミニウムと比較して気孔が細かく真球度の高い綺麗な気孔により形成されている。現在、破壊個所やプラトー応力の制御が可能な傾斜機能ポーラスアルミニウムの作製を試みており、今後、ダイカストを利用したポーラスアルミニウムの更なる高機能化に取り組む予定である。課題としては、気孔率80%を越えるものが現状では困難であり、支部の皆様のお知恵を頂ければ幸いです。

高強度鋳鉄の開発経緯 ~強い願望と目標設定~
青梅鋳造株式会社 代表取締役 三吉 俊幸 氏
松本 誠 氏

 子供の頃から鋳物工場で育ち、小遣いを稼ぎに手伝いをしたことはあるが、大学卒業後はスーツを着てアタッシュケースの会社に就職した。仕事も覚え、海外赴任が決まった。そのことを何のためらいもなく父に告げ日、何もいわず喜んでくれたが父の後ろ姿、それが家業の鋳物工場を継ぐ決心をさせた。

 しかし、父の苦労を知らず過ごしてきたので、この世界が「キロ単価いくら」という現実に驚愕・絶望をしたところから始まった。とはいえ、社長になったからには、会社を盛り上げ、社員の生活を守り良くして行かねばならない。この状況を打開しようと必死で模索した結果、「高付加価値の鋳物作り」と「業界で特化した特徴を出すこと」が必要との認識に到った。

 鋳物に素人であることも忘れ、決めた目標を目ざし鋳物と四つに組みあがいた。
そんな時、地域の青年セミナーで、松原忠康氏が講演されたナポ レオンヒル著「成功哲学」から「人に親切に、強い願望と明確な目標を持つこととプラス思考」を学んだ。早速これを実践しようと「目標を短期、中期、長期に分けて実現すること」とした。そして、考え付くままに合金開発計画を立て評価装置も揃えて数多くの実験を実行し続けた。すると周りに多くの会社の方々の協力を得られ、ついに鋳放しで引張強さ800MPa、伸び数%、水脆性が無く、切削加工性も良好なダクタイル鋳鉄を発明(特許取得)することが出来た。続いてこの鋳物の特性をPRして多くの会社を訪問の日々、その中の1社が興味を示してくれ、運よく高精度の歯車の鋳物素材として用いられる事となった。その後も順調に注文が増え、社長としての目標を達成でき今日に至っている。

 また近年は、薄肉でありながらチルがない高強度ダクタイル鋳鉄 をも発明することが出来 た。最後に氏が感慨深げに言われた「チャンスは後ろのドアから やってくる」との言葉そしてこの講演の機会が[今の自分に当時のような熱い願望と情熱が消えかけている」ことを教えてくれたことに感謝。「初心忘るべからず」で“もう一丁”次なる長期目標は鋳鉄の欠陥を克服する、夢のダクタイル鋳鉄の開発です。と締めくくられた。