関東支部の活動

研究

第89回関東支部講演会

第89回関東支部講演会開催される

(公社)日本鋳造工学会 関東支部研究委員会  駒崎 徹

 2014年8月26日、早稲田大学 西早稲田キャンパスにて、新しいものづくりのヒント~ポーラス金属の製法とたたら製鉄~と題して、第89回関東支部講演会が開催された。

ご講演中の吉沢氏
ご講演中の鈴木進補 教授

 はじめに、早稲田大学 鈴木進補 教授より「鋳造・凝固を利用したポーラス金属の製法」と題して、講演がなされた。ポーラス金属の作製には、固液間のガス原子溶解度差を利用し、凝固の際に固相に溶けきれなくなったガス原子により気孔を生成させることが説明された。ポーラス金属はその形態により4種類に分類でき、本講演ではロータス型構造を有するポーラス金属について、様々な作製方法やその特徴などが紹介された。ロータス金属は加圧ガス雰囲気で一方向凝固を行うことにより、作製することができる。鋳型鋳造法では、気孔は固液界面に対してほぼ垂直であり、温度勾配の方向とおおよそ同じ方向に気孔が成長するとのことであった。連続帯溶融法を用いると、引出速度や雰囲気ガス圧の制御によって気孔径や気孔率をコントロールできるそうである。また、連続鋳造法により、長手方向に均一な大断面のロータス金属を作製することができ、本手法により作製したロータス銅をスライス加工することで、ゴルフパターのフェイスインサート材(ロータスワン)の量産を可能にしたとの報告があった。また、水素ガスを使用せずに、安全かつ簡便にロータス金属を作製する手法として、パイプを基材の液相や半溶融スラリー中に浸漬する方法(パイプ浸漬法)やパイプを用いた連続鋳造法が紹介された。これらは、パイプと機材の溶融接合を用いた作製法であり、気孔の位置、体積率、寸法は、使用するパイプの設定により容易に制御可能とのことである。

ご講演中の吉沢氏
ご講演中の永田和宏 名誉教授

 つづいて、東京工業大学 永田和宏 名誉教授より「たたら製鉄と甑(こしき)」と題して、講演がなされた。まず、たたら製鉄の歴史や和銑の製造方法、特徴などが紹介された。たたら製鉄は、砂鉄を原料とし木炭を燃料として銑鉄(ズク)と鉧塊(ケラ)を半分ずつ生産する方法とのことであった。現代の製鋼では鉄鉱石を溶かすのに長時間を要し、非常に多くのCO2を排出するが、たたら製鉄のように砂鉄を原料とする手法であれば、短時間で溶かすことができ省エネであること、砂鉄を飛散させないマイクロ波製鉄の技術開発への期待などが語られた。たたら製鉄で製造した銑鉄を和銑と呼び、和銑の炭素濃度は3。5%程度で不純物が非常に少ない白銑とのことであった。現代の白銑は非常に脆いのに対して、和銑の白銑は丈夫で錆び難いそうである。玉鋼に代表されるケラの炭素濃度は1。5%程度であり、和鉄中の酸素濃度は現代の鋼と比べて非常に高く、0。1~0。2%程度とのことであった。また、木炭の燃焼により和銑を溶解するキューポラである甑が紹介された。講演中に強く語られた「失われた技術を研究することで、その技術を現代に再現し、また、古い物や伝統技術の中から、現代に利用できる物を見つけることがとても大切だ」というお話が非常に印象に残った。また、平安時代に和銑で造られていた芦屋釜が近年復元されたとのお話もあったが、第165回全国講演大会で、芦屋釜の里の新郷 英弘 氏による特別講演(鋳金の至宝、芦屋釜の復元に挑む)があることも、現代における和銑に対する想いの強さが現れているようで非常に興味深い。

 今回の講演会では、最先端の技術と古の技術の両方が紹介された。どちらの講演でも非常に多くの質問が挙がり、聴講者の興味の大きさが伺えた。本講演会が、今後新しいものづくりのヒントになるであろうと実感した。