関東支部の活動

研究

第5回関東支部学生講演会

(公社)日本鋳造工学会 関東支部YFE委員会

はじめに

 2019年12月6日金曜日に早稲田大学西早稲田キャンパスにおいて、第5回関東支部学生講演が開催されました。年末の忙しい時期でしたが、40名にも達する多くのみなさまにご参集いただきました。4回目までの学生講演では、関東支部内の各大学に講演者の推薦を依頼していましたが、「講演者が所属する大学が偏る」ならびに「講演発表時間が長い」などの意見が寄せられ、改善することが求められていました。そこで今回は、関東支部研究委員会が主導する中で企画を変更しました。具体的には、春秋の全国講演大会で講演発表を行った学生の中から「関東支部学生優秀講演賞(2019年新設)」を選考し、受賞者に講演発表を行っていただくこととしました。今西関東支部長の挨拶をかわきりに、野田研究委員会主査が司会を務める中で4件の講演発表が行われました。以下では、その概要についてご報告させていただきます。

 1件目は、群馬大学大学院修士課程1年生の大橋政孝君から、「ADC12を母材としたポーラスアルミニウムの発泡過程における接合法の検討」と題した講演が行われました。ポーラスアルミニウムの大型化を実現するひとつの方策として、複数のプリカーサを同時発泡させそれらを結合することが提案され、その有効性について検討が行われました。その結果、発泡過程で接合されたポーラスアルミニウムでも、一体で成形したポーラスアルミニウムと同等な曲げ強度が得られることなどが報告され、活発な質疑応答が行われました。
【大橋政孝君(群馬大)の講演の様子】

 

 2件目は、早稲田大学院修士課程1年生の大槻一貴君から、「粒子法ソルバーの水モデル流動解析バリデーションのためのPIVシステム開発」と題した講演が行われました。粒子法は溶湯自由界面の大変形ならびに飛沫を容易に表現できるものの、鋳造分野においては計算結果と実験結果の定量比較が十分でないそうです。そこで両者の定量比較を主目的とした研究が立案・実施されました。その結果、綿密な計画に基づいた解析と測定結果の間には良好な対応関係が見出されることなどが示され、鋳造分野におけるPIVシステムの有用性の一端が紹介されました。
【大槻一貴君(早稲田大)の講演の様子】

 

 3件目は、東京都市大学大学院修士課程1年生の若松耕平君から、「厚肉球状黒鉛鋳鉄の疲労亀裂進展に及ぼすチャンキー黒鉛の影響」と題した講演が行われました。球状黒鉛鋳鉄の鋳塊中心部に形成される異常黒鉛(チャンキー黒鉛)が疲労亀裂進展挙動に及ぼす影響について、詳細な報告が行われました。チャンキー黒鉛の存在によりIIa段階における停留限界が低下するならびにIIb段階における亀裂進展速度が加速することなどが報告され、破面粗さ誘起亀裂閉口挙動の観点から詳細な説明が行われました。
【若松耕平君(東京都市大)の講演の様子】

 

 4件目は、早稲田大学大学院修士課程2年生の清水雅人君から、「自動車車体用非熱処理Al-Mg系ダイカスト合金の凝固割れ性に及ぼすSi,Sr添加の影響」と題した講演が行われました。延性に優れ熱処理が不要なAl-Mg系鋳造用合金は有力な車体候補材料であるものの、凝固割れ感受性が高いことが問題となっています。そこで本研究では、Si、Sr、Ti、およびB添加が、凝固割れ感受性に及ぼす影響について系統的に検証が行われました。その結果、単独添加と比較すると、各元素の共添加が凝固割れ感受性の低下に効果的であるなど、数々の有益な研究結果が報告されました。

【清水雅人君(早稲田大)の講演の様子】

 

おわりに

 いずれの講演発表でも、全国講演大会当時の研究内容から発表が始まり、その後の進捗状況や現在の研究課題などについて詳細な発表が行われました。発表した学生は堂々とした態度で、また自信を持って研究発表ならびに質疑応答を行う姿勢がともて印象的でした。鋳造に関わる大学の研究室が減少する昨今ですが、このような若者が育っていることに深い感銘を覚えるとともに、鋳造分野の将来を悲観する必要はないと意を強くしました。講演会終了後の懇親会では、和気あいあいとした雰囲気の中で発表者同士ならびに企業技術者との間での会話が弾みあっという間に時間が過ぎてしまいました。通常の全国講演大会では実現することができない距離感の中で、研究活動や企業活動さらには社会人としての心得など多岐にわたる関心事について様々な意見交換が行えたことは、大変貴重な経験になったと思われます。この機会で得た経験ならびに人脈を活用する中で、立派な技術者、できれば日本の鋳造分野を牽引する技術者へと成長していただきたいと強く思いました。


【関東支部学生優秀講演賞受賞者と今西関東支部長】