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リレーエッセイ

手ニス、足ニス、口ニス

東京工業大学 材料工学専攻
手塚 裕康

金内 良夫 氏 最近、週末の午後2時間ほどのテニスを楽しみにしている。25年ほど前までは、雨や雪でコートがクローズドにならない限り、毎週末それも一日中ボールを追っては、ラケットを振り回していた。もともと仲間との遊びから見様見真似で始めたテニスなので、学生時代の部活で本格的にやってきたのとは全く別次元、不恰好で、ど下手である。学生時代から無謀にもがむしゃらに「本ちゃん」に挑戦し、何とか1ポイントでももぎ取ろうとあの手この手の作戦を立て、練習をし、運よく1ポイントでも取れれば、大満足であった。このほんの僅かな技術的上達と達成感(これは何時も勘違いではあったが)との魅力、全身で汗をかいた後の爽快感、そして何よりもその後のビールの旨さの誘惑、勿論そのときの宴会では「本ちゃん」も「ど素人の私」も関係なく、お互いの持論を喚き合うテニス談義に花を咲かせ、大いに楽しんでいた。
 しかし、学生時代からの持病、腰痛がテニスをするたびに再発、痛みが数週間続き、ひどいときには数日眠れない日が続くまでに悪化したため、止む無くテニスを断念し, この腰痛と(楽しみながら?)付き合って行くこととなった。そこではじめて、周りに腰痛と付き合っている人が多くいるのがわかり、いろいろと対処方法を伺うことが出来た。しかし、腰痛にもそれぞれ微妙に症状が違い、その対処の効果も異なるため、私に当てはまるものがなく(継続的に続けなかったものもあるが)、暫く体をくの字に曲げたままで炎症の鎮まるのを待つのみの生活を余儀なくさせられていた。10年ほど前になるが、たまたま知り合いのスポーツインストラクターに診てもらったところ、臀部とその下に続く脚部の後側の筋の柔軟性が著しく欠如しているのが、腰痛を持続し悪化させている要因であるとの指摘を受け、その部分のストレッチ方法を伝授してもらった。少しずつ続けていたところ約2年間ひどい腰痛に見舞われることがなく、再発しても軽度ですぐに痛みが解消するようになった。そこで、友人の誘いもあり恐々テニスを少ししてみたところ、数日間筋肉痛と疲労感は残ったが、腰痛はでなかった。勿論プレーの前後のストレッチは十分に行った。そのときの喜びと開放感は今でも鮮明に覚えている。
 そこで少しずつテニスを再開していくと、約15年のブランクと筋力の衰えを痛感させられた。もとよりテニスは手でラケットを振るスポーツで、ボールは相手が取りにくいところへ飛んでくる。それを打ち返すにはその場所まですばやく行かなければならない。即ち走らなければならない所謂「足ニス」なのである。走力を15年前の様に戻すのは困難と思われるので「ナイスショット」と相手のプレーを褒める。そんな自分の不甲斐無さの軽減行為がおのずと増えることになる。テニスではプレー中に声を発することはルール違反とされているが、これは違反とはされず寧ろ微笑ましいやり取りとして昔から多用されている。ところが仲間同士でのテニスでは、内外野からの楽しい野次やクレームの所謂「口ニス」は常套手段で、タイミングの良い丁々発止のやり取りを寧ろプレーよりも楽しみにしている人もいるようである。[口テニス]方は、年々衰えるどころかますます闊達になっていくような気がする。真夏と真冬を避け、天候の良いときだけするようにしているので、年間に平均すると月に2回程度ではあるが、向上心をくすぐる新たな発見と爽快感、そして美味しいビールの誘惑を楽しめるようになった。戻ってきたこの喜びを噛み締めている。もうすぐいい季節がやってくる「手ニス」、「足ニス」、「口ニス」を大いに楽しもうと思う。