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リレーエッセイ

鋳物人 じぇじぇじぇ!

日本鋳造工学会事務局 鈴木 理恵

鈴木 理恵 氏 会誌『鋳造工学』で、連載「鋳物人」を担当させてもらっている。

 早いもので連載も3年目に入り、上は70代から下は20代まで、インタビューした鋳物人は30人になるが、「あの人はいつ出るの?」「こういう人がいるんだけど」など言われることも多くて、まだまだ、鋳造の世界には紹介したくなる魅力的なお方がたくさんいらっしゃるのである。

 事務局に6年いて、編集委員会の片隅に毎回座っていても、私は鋳物のことはさっぱりだ。これから何年いようとも、きっとずっとちんぷんかんぷんであろう。美術館に通い詰めたところで名画が描けるようにはならないのと同じである。だから取材時は私のほかに編集委員がインタビュアになり、話が専門的になったときにはさりげなく解説してくれたり助け舟を出してくれたりする。時にはインタビューの後で、「あれはどういうことか」と質問することもある。恥ずかしながら「鋳物を吹く」という言い方を私はこの連載で始めて学んだ。「だいたい50トン吹いてたよね」とおっしゃったのを、最初は聞き間違いかと思ったのだ。後から辞書で調べてみたらしっかり載っていて驚いた。

 さて、インタビュイの鋳物人の方々も幅広い。いろんな方がいらっしゃる。もともと鋳物一筋で来られた方、なりゆきで鋳物の世界にどっぷり浸かってしまった方、鋳物だけはやるまいと決めていたのに気がついたら鋳物の世界にいた、という方。恥ずかしそうに「最初はあんまり積極的に関わったわけじゃないんだよね」とおっしゃる方がいるが、実は大半が同じようなきっかけだったりする。だけど今、実に皆さん楽しそうだ。しゃべっているとだんだん目が輝いてきて、少年のような笑顔になる。記事は2ページだが、インタビューは短くても1時間半、最長で5時間しゃべり続けた御仁もおいでになる。

北大構内で芝に座ってのインタビュー

北大構内で芝に座ってのインタビュー
(左側が私、中央に北大の野口先生)

 インタビューでは好きなように話していただくのでオフレコ話も結構多い。「これはオフレコだけど」が多すぎて、書ける話は2割程度だった、などということもあった。この“オフレコトーク”が実はとてもおもしろくて、いつかほとぼりが冷めた頃、何かの形でどこかに掲載したいと思っているが、今のところはインタビュアだけの特権になっている。

 インタビュアの特権といえば、インタビュー後に、鋳物人とのそれこそオフレコトーク満載の「ちょっと一杯」が割とよくあって、これがまた最高に楽しい。鋳物人は実に楽しくお酒を召し上がる方が多いので、インタビュー後半にはもうそわそわして椅子から腰を浮かし、「そろそろ行かない?」なんていうことになることも珍しくない。

 私はとても気が小さく、鋳物人インタビューの日は朝から吐きそうなほど緊張する。だが鋳物人の方々が本当に楽しそうに、鋳物をはじめものづくりのことや昔の思い出などを生き生きと話してくださるので、いつの間にか緊張を忘れ、原稿にしなければいけないことすら忘れ、いつもただお話に夢中になっている。そしてインタビューの後には決まって心がぽかぽかになって、「鋳物サイコー!」と叫びたくなるのだ。

 本当に、こんなに素敵な仕事がほかにあるだろうか。

 鋳物に、それに携わる鋳物人の方々に、ひたすら感謝の気持ちでいっぱいである。