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リレーエッセイ

続々々 昔の記憶

(株)キャデット 代表取締役
橋本 一朗 氏
 蒸気機関車(SL)は何で動くんだ?それは「石炭」だ。「そうだ炭鉱へ行こう!」。そんな動機で、カメラを片手に北海道の炭鉱へ来た。寒い。1971年冬。
 ここは北海道宗谷本線、日本最北端の稚内からちょっと南に下った天塩郡。日本最北の温泉郷「豊富温泉」のある豊富から、十数キロ内陸に専用線で結ばれている砿業所。積み出し口「一抗」にたどり着く。何か物悲しい雰囲気が漂う。
次に、北海道有数の炭鉱、「夕張、大夕張」へと向かう。力強いSLがやってきた。仕事帰りのおばちゃん達。ストーブ列車が走り、そして子供と出会う。
炭鉱、それを土地の人々は「炭礦-やま」と呼ぶ。それは、多くの人々を支え、多くの人々に支えられ、そして日本の発展を担い、動いていた。しかし、勇壮なSLの活躍とは裏腹に、これらの「やま」は僕の訪れたしばらく後、相次いで閉山になった。
それから約45年。
鋳物とは縁の深い石炭。鋳物に携わる今、この「炭礦-やま」への訪問は、その後の時代の移り変わりを思い出させる大切な「昔の記憶」として僕の頭の片隅にいつも在る。
(終)