誰でも分かる技術

誰でも分かる鋳物基礎講座

ダイカストの基礎(その1)

(社)日本ダイカスト協会 技術部  西 直美
1 ダイカストの概要
1.1 ダイカストの定義

 ダイカストは「アルミニウム合金、亜鉛合金、マグネシウム合金、銅合金などの溶融金属を精密な金型の中に圧入して、高精度で鋳肌の優れた鋳物を短時間に大量生産する鋳造方式である。また、同方法により得られる製品もダイカストと呼ばれる」。ダイカストは高い生産性、優れた寸法精度、美麗で滑らかな鋳肌、機械加工の削減、高い比強度及び量産性などの特徴を有し、図 1-1 に示すような自動車関連を中心にOA機器、家電用品、建築用品などの構造部品、機能部品として広く使用されている。

アルミニウム合金ダイカスト 亜鉛合金ダイカスト マグネシウム合金ダイカスト
図1-1 ダイカストの用途例

1.2 ダイカストの特徴

ダイカストの有する特徴は以下の通りである。

  1. 寸法精度:ダイカストの寸法精度は CT 5 等級で砂型鋳物、金型鋳物に比較して寸法精度が高い。
  2. 鋳はだ:ダイカストは重力金型鋳造や低圧鋳造のような塗型を必要とせず、しかもそれらに比べて高圧力で金型内に充填されるために鋳肌が美麗かつ平滑である。一般的にダイカストの表面粗さは 12S 以下にすることができ、砂型鋳物の 40~100S、金型鋳物の 10~80S に比べて小さい。
  3. 肉厚:ダイカストでは溶湯が高速で金型内に充填されるために、砂型鋳物や金型鋳物に比べてその肉厚を薄くすることができる。一般的にはアルミニウム合金ダイカストの肉厚は 2~4mm とされ、7mm 以上になると鋳巣などの内部欠陥が多くなり好ましくない。最近では弱電関係を中心に肉厚 1mm 以下の薄肉化の要求が でてきているが、薄くなりすぎると剛性、強度が不足したり、充填性が不足するため注意を要する。
  4. 強度:ダイカストの強度は JIS 規格では規定されていないが、ASTM 試験片での値が参考値として示されている。合金種にもよるが 250~300MPa 程度で、伸びは 1~3%程度(Al-Si 系合金の場合)である。しかしダ イカストの実体強度は製品肉厚、鋳造条件等により大きく異なるが、おおよそ ASTM 参考値の 70%程度の値 である。
  5. 設計の自由度:ダイカストは鋳抜きが容易で、寸法精度、鋳肌面粗度が優れているため最終形状に近い鋳物が大量に生産できるので、鋳物としての設計自由度が高い。しかし、鋳造圧力が高く、射出速度も速いため低圧鋳造や重力鋳造のような砂中子を使用できず一般的にはアンダーカットのある製品の鋳造には適さない。ただし、置き中子の使用や特殊コーティング処理した砂中子、可溶性中子等の特殊技術を用いればアンダーカット製品のダイカスト化が可能である。
  6. 鋳込金具:ダイカストは異種金属や非鉄金属などの材料(鋳込み金具)を正確な位置に鋳ぐるんでダイカ ストすることができる。この鋳込金具を利用することにより、ダイカスト合金では得られない硬度、強度、耐摩耗性などが容易に得られる。自動車用シリンダーブロックへの鉄ライナーの鋳ぐるみなどはその典型である。
  7. 切削加工費の削減:上記のような特徴を有するダイカストはニアネットシェイプ化が可能であり、面削、バフ加工、機械加工等を減少させることができる。また、寸法精度がよく製品間でのばらつきが少ないため加工代も少なくできる。

    次回は、ダイカストの歴史について概説する。