誰でも分かる技術

誰でも分かる鋳物基礎講座

ダイカストの基礎(その7)

(社)日本ダイカスト協会 技術部  西 直美
2 ダイカスト技術の基礎
2.3 ダイカストマシン

2.3.1 ダイカストマシンの基本原理

図2-38 ダイカストマシン射出系模式図

図2-38 ダイカストマシン射出系模式図

 ダイカストマシンは、溶湯を高速且つ高圧で金型キャビティに射出・充填するため、油圧による射出及び加圧が行われる。図2-38にダイカストマシン射出系の模式図を示す。射出スリーブに注湯された溶湯は、プランジャーの移動によりランナー(湯道)、ゲート(湯口)を通ってキャビティに射出充填される。プランジャーの速度は、数m/sで移動し、狭いゲートを通過する溶湯の速度は数10m/sに達する。キャビティに充填された溶湯は、プランジャーにより数10MPaの高圧力で加圧される。図2-39に射出部の模式図を示す。プランジャーからの加圧力は、パスカルの原理によりキャビティ内壁に均等に負荷される。このときのキャビティ内の圧力P1は、式(18)で示される。

図2-39 射出部の模式図

図2-39 射出部の模式図

式18

 したがって、キャビティの金型面には金型を押し開く力(型開力)F1が働く、この型開力に打ち勝って金型を締め付ける力(型締め力)このF1より大きくなくてはならない。

式19

 そこで、安全率Sを考慮して、型締め力F2で金型を締め付ける。この型締め力F2がダイカストマシンの大きさを示す。したがって、2500kNのダイカストマシンであればその大きさは型締め力2500kN(通常は250tと呼ばれることが多い)という意味である。

式20

ここで、
F0:射出力(kN)
d:プランジャーチップ径
F1:型開力(kN)
F2:型締め力(kN)
A0 :プランジャーチップ断面積(m2)
A1:鋳造面積(投影面積)( m2)
S:安全率(1.15~1.25)
P1:鋳造圧力(MPa)

 図2.6において射出が行われる際に、アキュムレーター内から圧縮された窒素ガスにより押し出される油(作動油と呼ぶ)は、射出シリンダーを通してプランジャーを移動させる。このとき、管路のどの部分でもその断面を通過する作動油の流量は同じであり、連続の式が成立する。
 また、圧力と速度の関係にはエネルギー保存則から。ベルヌーイの定理が成り立つ。

式21

 なお、ダイカストマシンの場合には位置エネルギー項ρghは変化しないので無視できる。
したがって、速度Vは式(22)で示される。

式22

また、流量Qは式(23)で示される。

式23

 ここで、
P : 射出力(kN)
P0: アキュムレーターの圧力(V=0のとき)
V : プランジャー速度(m/s)
ρ : 作動油の密度(kg/m3)
V0 : 空打ち最高速度(m/s)
Q : 流量(m3/s)
Q0: 流量(m3/s)

 ダイカストマシンは、溶湯射出部の方式によってとコールドチャンバーとホットチャンバーに分けられる。
以下にそれぞれの概略を示す。

2.3.2 ホットチャンバーマシン

図2 -40 ホットチャンバーマシン

図2 -40 ホットチャンバーマシン

図2 -41 ホットチャンバーマシンの動作

図2 -41 ホットチャンバーマシンの動作

 ホットチャンバーマシンは、一般に図2-40に示すような構造で、溶湯保温炉とダイカストマシンが一体となっており、グースネック(ガチョウの首に形が似ていることからこの名が付けられた)と呼ばれる射出部(チャンバー)が溶湯中にあり,加熱されていることからホットチャンバーの名称で呼ばれている。射出前のグースネック内は、ポートから流入した溶湯で満たされており、プランジャーを動作させることで溶湯を金型に射出・充填する。
 プランジャーの速度は1~2m/s程度である。給湯する必要がないので、鋳造サイクルが早く、時間当たりのショット数(鋳造回数)は100~1000程度である。また、酸化物、空気の巻き込みが少ない。さらに、鋳造圧力が7~25MPaと低いので、小さな型締め力で大きな製品の鋳造が可能である。ホットチャンバーマシンは主として亜鉛合金、マグネシウム合金などの鋳造に使用される。
 図2-41にホットチャンバーダイカストマシンの一連の動作を示す。離型剤を塗布した金型を閉め、プランジャーチップが降下して溶湯をグースネック、ノズルを通して金型キャビティに射出・充填する。ホットチャンバーダイカストの場合は、コールドチャンバーダイカストと異なり高速の一段射出方式が用いられる。凝固が完了するとプランジャーを戻し、同時に金型を開き、押出ピンを動作させてダイカストを金型から押し出す。

2.3.3 コールドチャンバーダイカス トマシン

図2 -40 ホットチャンバーマシン

図2 -40 ホットチャンバーマシン

図2 -41 ホットチャンバーマシンの動作

図2 -41 ホットチャンバーマシンの動作

 コールドチャンバーマシンは、図2-42に示すような構造で、溶湯保温炉とダイカストマシンが分離されており、射出部(チャンバー)が溶湯の中になく、空気中にあって冷えていることからコールドチャンバーの名称で呼ばれている。溶湯は1ショットごとに給湯機で射出部に供給され、プランジャーを動作させて金型に射出・充填される。通常、プランジャーの速度は低速と高速の2段階で設定され、高速速度は1~3m/s程度である。1ショットごとに給湯されるため,ショットサイクルはホットチャンバーに比較して長く、時間当たりのショット数は30~150程度である。また、鋳造圧力は20~120MPaでホットチャンバーに比較して高い。コールドチャンバーマシンはアルミニウム合金、亜鉛合金、マグネシウム合金、銅合金などの鋳造に使用される。
 図2-43にコールドチャンバーダイカストマシンの一連の動作を示す。離型剤を塗布した金型を閉め、ラドルや勺を使って射出スリーブに注湯する。直ちにプランジャーを前進させ溶湯を金型キャビティに射出・充填する。一般的に射出はスリーブ内の空気が溶湯に巻き込まれることを防止する目的で低速と高速の二段射出方式が用いられる。凝固が完了すると金型を開き、押出ピンを動作させてダイカストを金型から押し出す。

表2-7に合金種ごとにダイカストマシンの大きさと製品質量及び製品例を示す。

表2-9 ダイカストマシンの大きさと製品質量及び製品例

表2-9 ダイカストマシンの大きさと製品質量及び製品例