誰でも分かる技術

誰でも分かる鋳物基礎講座

鋳鉄の熱処理(第9回)

ものつくり大学 製造学科  鈴木 克美
9 鋳鉄のオーステンパー

 鋼をオーステナイト温度から焼入れするとマルテンサイトに変態することは先に述べた。その場合、冷却速度が遅いとフェライトやパーライトが現れるが、230~400℃に保持した「溶融塩浴(ソルトバス)」中に急冷して保持する恒温変態処理(オーステンパー処理)を行なうとベイナイト組織と呼ぶ組織が現れる。鋳鉄のオーステンパー熱処理パターンを図9-1に示す。


図9-1 鋳鉄のオーステンパー熱処理パターン

 第3回の図4-6で説明した連続変態曲線(CCT曲線)でマルテンサイト変態(MS点)よりも高温度で、かつパーライト変態を起こさない冷却速度で急冷させるのがポイントである。オーステンパー処理温度が高温度では荒い針状組織で残留オーステナイトが残り易くなり、低強度・高延性になるが、低温度では緻密な針状組織で高強度・低延性の強度特性になる。(図9-2参照)


図9-2 鋳鉄のオーステンパー処理温度の違いによるベイナイト組織の変化1)

 ベイナイト鋳鉄は他材料と比べて図9-3のように高強度で延性も兼ね備えることができる最大の鋳鉄強靭化法である。しかし、熱処理後の切削加工性が悪いので熱処理前に荒加工をしておく必要がある。仕上げ加工後の場合には酸化防止のための雰囲気炉を用いる必要があり、また歪みを考慮する必要がある。
オーステンパー処理に必要な恒温層には、従来から硝酸塩系の溶融塩が使用されてきたが、環境面で流動層炉を利用にした処理が実用化されている。
 なお、オーステンパー処理は通常の化学成分では製品肉厚約2インチが限度であり、それ以上の肉厚品では合金添加が必要になる。 なお、Ni-Moを添加調整すれば厚肉大物品の場合、オーステンパーせずに鋳放し冷却条件でベイナイト組織が得られるが、熱処理ベイナイトの靭性よりも劣る。 


図10-3 オーステンパ球状黒鉛鋳鉄(Austemper Ductile Cast Iron)の引張強さの位置づけ2)

引用文献
1)DCI Handbook
2)素形材センター編 ; 「鋳鉄の生産技術」(1999),P95