誰でも分かる技術

誰でも分かる鋳物基礎講座

セミソリッドダイカスト

第2回「セミソリッドダイカスト技術の変遷」
(株)東京理化工業所 菊池政男

3、セミソリッドダイカストの変遷
 表25)にセミソリッドダイカストの変遷を示す。1930年代にはポーラック式ダイカストマシンで黄銅ダイカストによるセミソリッドダイカストがヨーロッパで行われていた.日本では1940年代から1955年頃に、この方法によるダイカストが経験的な熟練技術として、各地で行われていた。その技術は、ねり湯、半ねり、シャーベット、ペースト法と称して、ポーラック式のダイカストマシンで行われていた。この方法は溶湯中に地金を入れ、攪拌することで半凝固状とし、それをヘラ状の杓ですくい取りダイカストマシンのスリーブへ入れ射出充填していた。ポーラック式ダイカストマシンでは、通常の溶融状態で注湯するとプランジャとスリーブ間に溶湯が差し込み、鋳ばりが発生しプランジャの動きが不安定になる。これを防止する目的でセミソリッドが利用された。図76)にポーラック式ダイカストマシンの原理を示す.この様な方法なので、酸化物の混入及び金属間化合物の成長によるハードスポット問題、温度管理が不十分なための固相率のバラツキ、ルツボ炉でのバッチ操業による生産性の悪さ、及びセミソリッド化しにくいADC12の普及、横型ダイカストマシンの登場などから、この方法は1955年頃迄に自然に姿を消してしまった。
 その後、1960年代から1980年代にかけて米国・日本において表に示すような半凝固・半溶融金属に関する特性及び加工法についての基礎研究開発がなされた。
  1980年代後半に欧米のアルミ地金メーカーが、半溶融加工用ビレットを製造し半溶融ダイカストの実用化が開始された。

表25)5') セミソリッドダイカストの変遷

 日本においても、鉄鋼大手メーカー数社が㈱レオテックを設立し、半凝固・半溶融金属加工に関する研究を行い、多くの成果をあげた。工業化に関しては1994年~1995年に(株)スピードスター(図85))、(株)東京理化工業所(図95))、旭テック(株)(図105))がチクソキャスト法でのアルミニウム合金ダイカストでの生産を開始した.さらに、マグネシウム合金では(株)日本製鋼所(図115))が、1994年に樹脂成型機での実用化を開始した。これらはチクソキャスト法であったが、1997年に日立金属(株)、1998年に宇部興産機械(株)がレオキャスト法によるセミソリッドダイカストを実用化している。これらはともに液相線温度直上からの低温溶湯からセミソリッド状にしてスクイズキャスト用竪鋳込みダイカストマシンにてダイカストする方法である.日立金属は、射出スリーブ外周に設置した攪拌用電磁コイルによりスリーブ中に注湯した溶湯を攪拌し、セミソリッド状になったところで射出充填する方法である。電磁コイル付射出スリーブを図127)に示す。宇部興産機械(株)は、液相線温度直上の低温溶湯をいったんスラリー製造容器に注湯し、所定量の固相を晶出させたあとに容器内壁凝固層を再溶解するため加熱調整したスラリーをスクイズダイカストマシンの射出スリーブに投入して、射出充填する方法を新レオキャスト法(NRC法:New Rheo-Casting法)として開発した。NRC法のプロセス概要を図138),9)に示す。

参考文献
5)菊池 政男:「アルミニウム合金鋳造技術の今後の展開と鋳造欠陥への対応」(素形材センター)、(1997)、P14~P15。
5')西直美 : 型技術、Vol.20、No.5 (2005) 14
6)(社)日本ダイカスト協会編「日本ダイカスト史」日刊工業新聞社(1986)
7)金内 良夫・柴田 良一・今村 具哉:鋳造工学、Vol74、(2002)、9、P595。
8)安達・佐藤・佐々木・川崎・原田・明本・坂本 達雄:1998年日本ダイカスト会議論文集、(1998)、P123~P128。
9)安達 充・佐藤 智:塑性と加工、Vol41、No479、(2000)、P1192。