誰でも分かる技術

誰でも分かる鋳物基礎講座

ダイカストの最新技術(その4)

(一社)日本ダイカスト協会 技術部
西 直美
3.5 ダイカストの複合化技術
図3-17 SiC粒子を分散させたMMCが開発ミクロ組織31)
図3-18 Al2O3とCの短繊維からなる筒状のプリフォームと複合材の界面組織33)

 複合材料は複数の個別材料を複合化して高度な特性を実現する材料で、航空機産業、自動車産業など多くの産業分野で実用化されている。金属をマトリックスとする金属基複合材料(MMC:Metal Matrix Composites)には大別して粒子分散型と繊維強化型の2種類があり、主に鋳造プロセスを利用して製造される。ダイカストに於いても、これまで多くの研究・開発が行われているが実用化例は少ない。

 粒子分散型の例としては、1990年代にDURALCAN.USAによってSiC粒子を分散させたMMCが開発され31)、ドイツの高速鉄道のブレーキローターやVolkswagenのNew Lupo ブレーキシステム(ディスク、ドラム、キャリパー等)に使用されている。図3-17にダイカストした同複合材のミクロ組織(a)とブレーキキャリパーの製品例(b)を示す。
 しかし、セラミックス粒子を使用することからリサイクル性十分配慮する必要がある。それに対し、リョービでは金属間化合物粒子をアルミニウム合金溶湯に添加し、ダイカストすることで均一な分散を可能にし、耐摩耗性、靭性に優れたMMCを開発した31)。溶湯との濡れ性が良いことと高速射出充填により均一に粒子が分散できる。粒子とマトリックス界面の密着性が良好で、セラミックスなどの粒子に比べて脱落が少ない。また、金属間化合物粒子を使用しているため溶解することでリサイクルが極めて容易である特徴を有する。

 繊維強化複合材料については、ホンダエンジニアリングがAl2O3繊維と炭素繊維からなる筒状のプリフォームに中圧ダイカスト法の一種であるNDC(New Die Casting)法でADC12を加圧溶浸させたシリンダーブロックを開発した33)。図3-18に(a)ライナープリフォーム、(b)プリフォームSEM写真、(c)複合部のミクロ組織を示す。リョービではAl2O3短繊維とSiC粒子からなるハイブリッド型のプリフォームを層流ダイカストで複合化してベルトコンベアのローラを開発した34)。このように、繊維強化型複合材料では耐摩耗性を期待した用途が多い。

 しかし、複合材料は多くの研究開発が行われてきた割には実用化が進んでおらず、新しい市場をめざし、ダイカストのさらなる高機能化を求めるには重要な材料技術といえる。

4 今後の課題

 1950年代以降ダイカスト生産量が急速に増加するとともに、ダイカストの品質を向上させ、高い信頼性を得るために多くの研究開発が行われ、種々の新しいダイカスト法、鋳造技術が開発されてきた。しかし、まだ十分な信頼性を得るまでには至っておらず、研究開発すべき課題が多い。今後ダイカストが一層発展し、市場を拡大していくためには次のような技術的な課題を解決する必要があるものと考えられる。

(1) 鋳造欠陥・不良の撲滅
(2) 高機能鋳造合金材料の開発
(3) 長寿命、高融点材料対応金型の開発
(4) 鍛造、溶接等の他の加工法との複合化
(5) 環境対応型ダイカスト工場・生産システムの確立

 また、昨今の中国・東南アジアを中心とした低コスト時代の国際競争において生き残るためには、いかに安く、いかに速く、いかに高品質なダイカストをユーザーに提供できるかを追求する必要があり。上記のような技術的な課題のみでなく総合的な取り組みが必要であると考えられる。
しかし、昨今の厳しい環境の中で、これらの課題に対して個々の企業の努力では解決困難な状況にあり、産・学・官での連携を一層活発にして取り組んでいく必要がある。

参考文献
31) 望月、白井、大代、樋野、江部:1992年日本ダイカスト会議論文集(1992)229
32) 大村、新井、西:鋳造工学72(2000)181
33) M.Ebisawa、T.Hara、T.Hayashi and H.Ushio:SAE Paper 910835
34) 大村、新田、村島、高橋、西:鋳造工学70(1998)