誰でも分かる技術

誰でも分かる鋳物基礎講座

溶解

4.電気炉溶解の実際 「4-3 電気炉(誘導炉)溶解のポイント」
自動車鋳物株式会社 鈴木 敏光

誘導炉溶解のポイントを、次の3つの観点から考えてみよう。
(1) 品質の良い溶湯をつくる (2) 設備管理(事故とその防止法) (3) エネルギー効率を良くする

(1) 品質の良い溶湯とは何か?
 良い鋳物を得る上で、溶湯に求められるいくつかの条件があるが、まず「黒鉛が晶出し易い溶湯であることが重要である。鋳鉄の凝固過程では、溶湯中に含有する炭素がチル(鉄炭化物:Fe3C)にならずに黒鉛として生成させることが大切である。そのためには、結晶生成のきっかけとなる物質の存在が必要である。これは、雪の結晶に空気中のチリが核になるように、鋳鉄では溶湯中の非金属介在物(SiO2やその複合酸化合物、硫化物さらに未溶解微細黒鉛など)がその役目を果たす。したがって溶湯中にこのような核生成物質がどの程度存在しているかが、良い溶湯の条件のひとつである。
  これらの核生成物質は、高温長時間保持で消失したり、材料投入のタイミングによって変化してくる。これらを考慮すると、誘導炉溶解は材料の装入順序、溶解時間の管理、また高温での溶湯保持を極力避けるな
どの工夫が必要である。
  図7は溶湯中に進入した酸素が、温度の違いによってシリコンまたは炭素と選択的に反応することを示すものである。およそ1,400℃を境にして、低温域ではシリコンが、高温域では炭素が酸素と優先的に反応し
ていることが分かる。このような変化が起こる事も踏まえると、加炭剤やFeSi合金の投入タイミング等も工夫の対象にすべきである。

 次に品質を決める上で重要なのは、材料から持ち込まれる合金元素(Si、Mn、P、S、Crなど)である。近年、電気誘導炉溶解の主原料であるスチールスクラップは、その高強度化や耐腐食性改善のためにマンガン、クロム、アルミなどの合金元素を多く量に含むようになり、鋳鉄溶湯側からすると汚染が進んでいる。精錬作用のない電気誘導炉の場合、材料から持ち込まれる有害元素を少なくするために、材料の厳選も重要である。

(2) 誘導炉溶解における事故とその防止法
 るつぼ型の誘導炉は、厚さ約100mm の耐火物をはさんで、1,500℃の溶湯と銅製の誘導コイル(内部に冷却水が流れている)が設置されている(第一回目の図2参照)。耐火物は使っていく過程で40~50mm程度まで薄くなることがある。そこで最も注意しなければならないのが、耐火物の損傷による湯洩れ事故である。耐火物は、粉体のSiO2等が熱を受けて焼結した状態であり、機械的な衝撃や熱衝撃によって亀裂を発生し易い。従って、溶解が終わった後は耐火物が急激に冷めないようにしっかり蓋をすること、炉が冷えた状態からの溶解開始時は時間をかけて温度を少しずつ上げていくこと、原材料装入時の耐火物への衝撃なども極力小さくする工夫が必要である。

 また、最近多く使われている中高周波誘導炉の場合は、耐火物表面に付着したスラグの内側が局部的にオーバーヒートして耐火物を損傷させる事例もあり、炉の特性を良く知った上で、注意深く操業する必要がある。

(3) エネルギー効率を良くする方法
 誘導炉溶解においてエネルギー効率を良くすることとは、溶解に使われる以外の熱損失を最小限にすることである。熱の損失には、溶融金属からの放射/対流ロス、コイル冷却水が持ち去る熱量、集塵機での排風が持ち去る熱量などが有る。これらを最少にするには、集塵風量などの条件設定の最適化はもちろん、操業中こまめに蓋を閉めるなどの気遣いが大切である。しかし、溶解時間と保持時間を短縮することが最も有効であることは間違いない。従って、効率の良い材料サイズの選択や溶解開始のタイミング、保持を最少にするための稼働時間の工夫が重要である。
  図8は、熱効率を炉の種類別に比較したものである。誘導炉の特徴は、溶けからの昇温効率が最も高いので、この特性を十分知った上で操業することも有効である。

 以上、3回に亘って誘導電気炉溶解について述べてきたが、詳細についてはふれることができなかった。溶解に携わる読者のみなさんには、誘導電気炉の特性を十分理解した上で品質の良い溶湯を効率良く溶解で
きるよう、いろいろな機会を活用してさらなる研鑽を積まれることを期待する。