誰でも分かる技術

誰でも分かる鋳物基礎講座

アルミ合金鋳物の材質及び基礎知識

1.鋳物鋳造凝固組織 「1-3 結晶微細化とは、その目的は」
東京工業大学名誉教授 神尾 彰彦

鋳物に限らず板や棒などの加工材料においても凝固組織(鋳造組織)が微細で均一なほど強度やじん性(伸びや衝撃値など)は高い値を示すことが知られている。従って、実際の溶解・鋳造では組織をできるだけ微細にすることが行われている。

アルミニウム合金鋳物・ダイカストの組織は、過共晶Al-Si系合金(AC9A、AC9B、ADC14、A390など)を除いて、基本的には初晶α-Al固溶体(Al中に合金元素が少し溶け込んでいる固相)のデンドライト結晶と共晶とで構成されている。例えば、重力金型鋳造したAC4C合金鋳物では、1に示すように、液相から最初にデンドライト形状の初晶α-Al結晶が生成して成長し、最終段階でα-Al結晶とSi結晶との共晶(α+Si共晶、共晶Siは薄い板状に生成する)がα-Alデンドライト結晶の間に生成する。Mgはα-Al結晶の中にほとんど固溶するが、Mg量が多いとα-Al結晶とMg2Si結晶との共晶が生成する。FeやMnが含有されていると、Al-Fe-Si化合物あるいはAl-Fe-Mn-Si化合物がα+Si共晶が生成するより高い温度で針状に生成する。なお、Al-Fe-Mn-Si化合物はFeとMnの量によっていろいろな形状を呈する。これらの組織が均一で微細に分布すればするほど機械的性質は向上する。

 共晶組成および共晶組成にごく近い組成の合金を除いて、多くの合金は図1のAC4C合金のように初晶α-Alデンドライト結晶の生成量が大部分を占めている。従って、α-Alデンドライトの大きさが凝固後の結晶粒の大きさを決めることになる。

初晶α-Alデンドライトを微細にするには、デンドライトの生成数を増すことにより個々のデンドライトの成長を抑えて小さいままにすることである。初晶α-Alデンドライトの生成数を増すには2つの方法がとられている。
1つ目は、鋳型への鋳造後、溶湯の冷却速度をできるだけ速くして凝固が開始する時の過冷却を大きく発生させることである。溶湯が過冷却されて生成した1つのα-Al結晶が大きくなって1つのデンドライト結晶に成長する。過冷却が大きいと多くのα-Al結晶が生成し、デンドライト結晶の生成数は増加する。実際の鋳造では砂型鋳造よりも金型鋳造の方が、また金型鋳造でも金型温度が低い方が溶湯の冷却速度が速く、過冷却が大きくなりデンドライト生成数が増加し、組織は微細化する。

2つ目は、α-Al結晶の生成を小さい過冷却のもとでも起こりやすくするために、α-Al結晶の‘種’になる物質を溶湯に添加してα-Al結晶を沢山生成させることである。この種になる物質を‘異質核’という。1つの異質核が1つのα-Al結晶を生成させて1つのデンドライト結晶になる。すなわち、異質核を多く添加することによりα-Al結晶のデンドライト数を増加させることができる。α-Al結晶の異質核になりうる物質は限られていて、TiAl3、TiB2、ZrAl3化合物などが有効な異質核となることが知られている。2は異質核のTiAl3化合物を中心にして生成したAl結晶の組織である。通常アルミニウム合金地金や鋳物中にTiが含有されているのはこのためで、α-Alデンドライトの生成数を多くし、大きさを微細にする。TiやBは一般にAl-Ti母合金、Al-Ti-B母合金を用いて溶湯中に添加される。

異質核による結晶微細化は過共晶Al-Si系合金においても必ず行われる。Si量が13%を超える合金では、初晶としてSi結晶が生成する。図3に示すように、Si結晶は粗大な塊状に成長し、強度やじん性を低下させ、被削性(切削性)を著しく悪くする。それ故、初晶Si結晶を微細にするために溶湯中にPを添加する。Pを添加すると(Cu-P母合金あるいはAl-Cu-P母合金を用いて添加する)、溶湯中でAlP化合物が形成し、これがSi結晶の有効な異質核になる。その結果、初晶Si結晶は著しく微細化され、機械的性質、被削性が改善される。

初晶α-Alデンドライトを微細化することは、デンドライトの全体を小さくするとともに、デンドライトのアームの発生も抑えて、その2次アーム(デンドライトの主軸(幹)から直角に生成した枝を2次アームという。)の間隔を狭くする。一般にデンドライト2次アーム間隔(DAS)を狭くすると、その間隙に分布する共晶や化合物も小さくなり、全体に細かく分布することになる。デンドライト2次アーム間隔はとくに冷却速度(V)に依存し、冷却速度が速いほど2次アーム間隔(d2)は狭くなり、それらの間には、d2 = a V-nの関係がある。aは合金によって決まる定数で、nは合金によらず約0.3である。すなわちd2はVの0.3乗に逆比例する。d2は砂型鋳造では大きく、金型鋳造では小さくなる。

冷却速度に支配される2次アーム間隔は、鋳物の機械的性質に大きな影響を与える。4は、AC4CH合金鋳物の種々の機械的性質のデンドライト2次アーム間隔による変化を示す。冷却速度が速くなりデンドライト2次アーム間隔が小さいほど、強さも伸びも大きく上昇する。2次アーム間隔はとくに鋳物のじん性を表わす伸び、衝撃値ならびに疲れ強さに大きな影響を及ぼす。

この傾向は、冷却速度が著しく速いダイカストにおいても同じである。ダイカストでは冷却速度が著しく速く(およそ50~800℃/s)、凝固時間が短すぎるため2次アームがちゃんと形成できないので、生成しているアームの太さ(デンドライトセルサイズと称する)を測定し、引張強さとの関係を調べた結果を図5に示す。小さなデンドライトセルサイズのわずかな違いでもダイカストの引張強さに大きな影響を与えている。

結晶微細化は初晶の結晶だけでなく、その後に生成する共晶や金属間化合物も同様に微細化する。それらは冷却速度の上昇あるいは特定元素の添加により生成数が多くなるとともに形態が変化し、成長が抑制され微細化する。Al-Si系合金の共晶Si結晶は、前回の講座「改良処理」で述べたように、NaやSrの添加により薄い板状のSi結晶がさんご形状のように枝を発生して形態が変化し、それが溶体化加熱で分断粒状化して著しく微細化する。それによりAl-Si系合金鋳物のじん性は著しく改善される。またFe系化合物も冷却速度が速くなると微細化することにより、鋳物のじん性を低下させる影響を軽減することができる。

(おわり)