誰でも分かる技術

誰でも分かる鋳物基礎講座

アルミ合金鋳物の材質及び基礎知識

2.溶湯と鋳造 「2-1 溶湯処理とは」
日本軽金属株式会社 北岡 山治

 疲れた体を癒すには暖かいお風呂に入るのが一番という人は多い。お風呂に入ってゆっくりしようと湯船につかり一息ついた時に、お風呂の湯が汚れていては台無し。気分をひどく害する。アルミ合金鋳物を造るときも同様に、元になる溶湯がきれいで目的に合った場合と、汚れていてまともな鋳物ができない場合がある。良い鋳物は、先ずはきれいな良い溶湯を造ることからはじまる。

溶湯の品質



溶湯の品質は ①化学成分、②ガス、③介在物、④温度で評価される。

化学成分は使用する地金や返り材でSi、Cu、Mg、Feなどの主要な成分がきまるが、この他にも共晶Siの形を整える改良処理用のNaやSrなどの微量成分の調整、あるいは結晶を微細化するTiやTi-Bなどの添加調整も重要となる。さらに微量の成分が影響することもあり、希望する成分に整えることは、最も重要な作業といえる。

ガスとは水素ガスのことであり、大気中などに含まれる水分とアルミ溶湯が反応して水素原子の形で溶湯中に取り込まれたものをいう。高温の溶湯では多くの水素原子を溶け込ますことができるが、温度が下がり凝固して固体になると、その量は極端に少なくなる。このため、水素原子は凝固過程で分子となり気泡となる。気泡は鋳物中に閉じこめられガス欠陥になる。これらは、機械的性質、特に伸び、衝撃値、疲れ強さなどの重要な特性を著しく低下させる(図1)。このため、一般的に溶湯中のガスは徹底して除くことが必要となる。ただしダイカストのように冷却速度の速い鋳物では気泡になりにくく、影響が少ない場合もある。

介在物には酸化物をはじめ多くの種類があるが、最も一般的な介在物はアルミの酸化皮膜といえる。アルミ溶湯は簡単に大気中の酸素と反応して酸化アルミとなり、はじめは極めて薄い皮膜として溶湯面を覆う。時間が経てばどんどん厚さを増す。アルミ溶湯は比重が軽く、酸化皮膜との比重差も小さいので、簡単に溶湯に混ざり、また、分離しにくい。これが混入するとガスと同様に機械的性質を劣化させるだけではなく(図2)、溶湯の流れを阻害して不良発生を促すことも多い。ガスと異なり、冷却速度に関係なく有害であるため、ダイカストを含む全ての鋳物において徹底した除去が必要となる。

温度は鋳物を造る全ての工程で最も重要な因子ということができる。溶湯品質についても同様であり、①~③の条件が満足されても温度が不適当であれば、良好な溶湯品質とはいえず、目的にあった最適な温度に調整しなければならない。

溶湯処理
溶湯処理とは、地金や返り材などの原材料を溶かして得られた溶湯を、最高品質の鋳物を得るための、目的にあった最高の品質に仕上げる処理ということができる。内容としては①~④のそれぞれの要求特性を満足させることではあるが、一般的には成分と温度(①と④)は一般的であるため、ガスと酸化皮膜(②と③)に重点がおかれ、脱ガス+脱介在物を意味する場合が多い。具体的に現在一般的に用いられている方法は、溶解炉から保持炉(手元炉)への移湯取鍋中での処理あるいは保持炉中での処理などが多い。Arガスなどの不活性ガスの気泡を回転翼により細かく分散させて溶湯に多くの気液界面を作り、水素ガスを気泡に拡散させて除去するとともに、介在物を気泡に吸着させて分離させる(図3)。
100kg程度の小規模な溶解では、フラックス処理による場合が多い。

アルミは簡単に汚れやすいので、鋳造直前まで、徹底した溶湯品質の管理が必要であり、十分な気配りが求められる。