誰でも分かる技術

誰でも分かる鋳物基礎講座

生型砂とベントナト

2. ベントナイトと水分
(株)ボルクレイ・ジャパン  片岡 茂

2.1.水分


図1 水分とCB値との関係(ベントナイト+新砂)
主題のベントナイトの前に、生型砂の水分について考えてみましょう。よく言う「生型混練砂の水分が3.5%」ですが、これは砂の周りに付着しているベントナイトの含有水分が3.5%なのでしょうか?
そこで,実験的に新砂にベントナイトだけを添加(7%または8%)し、ミルで1回混練(以降、単混練)したものの水分とCB(コンパクタビリティ;内径50φx約100mm長さの鋼製の筒に鋳物砂を3.35mmの篩を通して自由落下させ一杯にし、上面の砂をかき取り平らにした後、標準ランマーで3回搗き固めて縮んだ率)の関係を1に示します。 図より、CB40%の時の水分はベントナイト7%添加で約2.15%、8%では約2.39%です。この時のベントナイトの含水率をχ%、新砂は吸水しない(含水率0%;砂粒表面上の付着水を除外)と仮定し乱暴に計算すると、ベントナイト7%、8%添加の時ベントナイト含水率χはそれぞれ以下のようになります。
<7%添加>
(7%xχ%+93%x0%)/100=2.15
         χ=30.7
<8%添加>
 8%xχ%+92%x0%)/100=2.39
         χ=29.9
どちらもベントナイトの含水率は約30%になることが分かります。即ち、新砂単混練CB40%でのベントナイト含水率はほぼ同一の約30%(またCB50%の含水率は約33%)で、ベントナイト添加量が7%から8%に増えると、全体の水分が増加することになります。
 ここで、一般的な鋳物工場のライン砂の最適水分が3.5%(この工場のCB管理値40)で組成が、ベントナイト(活性粘土分):8%、強熱減量(イグロス≒石炭粉+澱粉+その他)):4%、砂:68%、オーリチック分:20%とすると、このライン砂の水分は次式で計算できます。

{8%ベントナイト×χ%+4%<石炭粉+澱粉>×y% +68%砂×0%+20%オーリチック×z%}/100=3.5%   (χ,y,zは生型砂構成物の含水率)
上の式のχは約30%(新砂単混練の含水率の値を適用)なので、ベントナイトが保有する水分は2.4%になります。しかし、CB管理値より適正水分が3.5%なので残りの1.1%(=3.5%-2.4%)の水分は、石炭粉、澱粉、オーリチック分などに吸収されている事が分かります。したがって、べントナイトを始めとするこれらが増えると水分も増えることがわかります。
 鋳物工場では、通常、CB値が一定(30~50%)になるように砂を管理しているので、ベントナイト(活性粘土分)、澱粉、石炭粉、オーリチック量などの変動によって必要水分量が変動することになります。即ち、戻り砂の水分や砂温が一定で、同じ量の水分を加えたとしてもベントナイト等の構成物の変動があればCBが変化することになります。
 では、何故ベントナイト(活性粘土分)、澱粉、石炭粉、オーリチック量などが変動するのでしょうか。それは、製造する鋳物によってサンドメタル比(鋳込み重量/鋳型重量、以降、S/M比)やコアサンド比(中子砂重量/鋳型重量、以降、C/S比)が変化するからです。ここで、このベントナイト量(活性粘土分)を一定に保つためには、これらの変化によっても活性粘土分に変動が生じないようにベントナイト添加量をコントロールする必要があります。

2.2.ベントナイト


表1 各タイプのベントナイトの特徴

図2 累加混練による湿態圧縮強さの変化
 ここからが本題で、ベントナイトにはナトリウムタイプ(Na系)とカルシウムタイプ(Ca系)そしてCa系をNa処理した活性化タイプ(Act)の3つに分類されます。これらの特徴を11に、Na系と活性化(Na処理)ベントナイトの累加混練による湿態圧縮強度の変化の実験結果(図2)を補足資料として載せます。
(1)生型強度(表1):新砂単混練での湿態圧縮強さのことです。表1よりCa系が最も高く、次いで活性化タイプ、Na系となっています。この強度は2の累加混練の1回目(単混練)に相当し、ここではNa系(●)より活性化タイプ(◆)の方が高くなっています。
 次に累加混練特性(表1)は、累加混練によるベントナイトの強度変化のことです。2よりNa系の強度は5~7回の累加混練で活性化タイプに並び、それ以降も高くなり、10回混練まで上昇しています。これに比べ活性化タイプは単混練~4回混練まではNa系より高いが、累加混練による強度上昇が少なく、6回目でほぼ上昇が止まり10回混練ではNa系より低くなっています。Ca系は表1から活性化タイプより更に低くなると考えられます。工場での生型砂は繰返し使用されるので、工場で管理している生型湿態圧縮強度では累加混練特性が重要になります。
(2)耐熱性:鋳型内壁面のベントナイトは、高温の溶湯に接し焼損(デッドクレー化)します。表1より耐熱性に優れているのはNa系で、活性化タイプとCa系は劣っています。耐熱性が低いものほど焼損量が多く、繰り返し使用する生型砂の特性を維持するには、追添加量を増やさなければならなくなります。
(3)立ち上がり:生型砂はベントナイトの焼損分と新砂や中子砂の混入による強度低下分を補うためにベントナイトを追添加しますが、それがすぐ効果を発揮するかどうかの目安で、表1立ち上がりを参照下さい。中子砂の混入量が多く、ベントナイト追添加量の多い工場では比較的立ち上がりの早い活性化タイプを混ぜて、立ち上がり特性を補うことも一つの手段です。
 大まかな特徴を説明いたしましたが、日本国内では、Na系またはNa系と活性化タイプを混合(ミックスタイプ)したベントナイトを使用する鋳物工場が多いが(単独で活性化タイプを使う工場も若干あります)、Ca系だけを使っている工場はほとんど見受けられません。しかし中国や米国では、Ca系を単独で使用している工場もあるようです。

参考文献
阪口康司:鋳型の生産技術(1995年 素形材センター)