誰でも分かる技術

誰でも分かる鋳物基礎講座

砂型

旭有機材工業(株) 素形材技術部 森 敬一
2 シェルモールド法について

2-1 シェルモールド法の歴史

 シェルモールド法が開発される以前の中子には粘土を用いた乾燥型や焼型、亜麻仁油などの乾性油を用い、造型後乾燥炉にて加熱硬化させた油砂型が使われていたが、生産性や鋳物の精度において満足できるものではなかった。
 シェルモールド法は1944年、ドイツのヨハネス・クローニング(J.Croning)博士が発明した鋳型造型法であり、発明者の名前からクローニング法またはC法とも呼ばれている。これにより、寸法精度が高い鋳造品の製造が可能となった。
 当初のシェルモールド法は、硅砂などの骨材にフェノール樹脂・硬化剤(ヘキサミン)の粉末を混合したパウダーレジンサンドが用いられていた。しかし、この方法ではバインダーが粉末状で混合されただけの状態であるため、樹脂の粉塵が飛散する、バインダー使用量が多い、金型汚れが激しいという問題点があった。少量のケロシン(灯油)を砂に添加し、樹脂を砂に付着させることもされたが、この方法は鋳物砂の流動性を悪化させるものであった。
 この問題点を解決したのが1952年にアメリカで発表されたレジンコーテッドサンド(RCS)法である。RCSはフェノール樹脂とヘキサミンを骨材表面に樹脂が均一に被覆されたものであり、粉塵がなく流動性に富み、貯蔵安定性に優れている。日本では1953年に東洋工業㈱(現在のマツダ㈱)がこのRCS法を技術導入したのを皮切りに、自動車産業の発展に大きな役割を果たした。

2-2 シェルモールド法の利点と欠点

 シェルモールド法は大量生産型の中子製作によく適用される。他の造型法との差異を表2に示す。

表2.大量生産型プロセスとの対比*1

造型法 シェルモールド法 コールドボックス法 ホットボックス法
バインダー フェノール樹脂 フェノール樹脂
イソシアネート樹脂
フラン樹脂
混錬砂の状態 乾態 湿態 湿態
混錬砂の流動性 良好 やや悪い やや悪い
可使時間 ほぼ無限 数時間 数時間
造型温度 250~350℃ 常温 220~270℃
造型サイクル 60~120秒 40~90秒 60~90秒
造型時発生臭気成分 フェノール
ホルムアルデヒド
アンモニア
アミン
溶剤
フラン
ホルムアルデヒド
鋳型保存性 良好 劣る やや劣る
熱間強度 強い 劣る やや劣る
砂の選択性 融通できる 限定される 限定される
*1) 財団法人素形材センター「鋳型の生産技術」(第2版)(2002)P.249より抜粋

2-2-1 利点

  • 乾態で流動性が良い
    乾態のRCSは流動性が良く金型への充填が容易である。そのため複雑な形状であっても容易に充填・造型ができる。
  • 鋳型強度が強い
    鋳型の長距離輸送が可能となり、取り扱い中の破損が少ない。鋳型を縦方向に重ねたスタックモールド法、横方向に重ねたHプロセスにも適用される。
  • 鋳型の強度劣化がほとんどない
    コールドボックス法やホットボックス法などと比較して鋳型を適切に保管する限りは吸湿などによる強度劣化がほとんどない。
  • 中空中子の造型が可能である
    シェル鋳型は金型から伝わる熱を利用して造型される。RCSが充填された金型を鋳型内部まで熱が伝わる前に180度反転し未融着のRCSを排出することによって中空の中子ができあがる。排出されたRCSは再利用できるなど鋳型材料の節約に繋がるだけでなく、中子からのガス発生量の低下、鋳造後の砂出し性の向上にもなる。
  • 生型砂へのシェル中子の混入による影響が少ない
    耐熱性が高く鋳造後の熱による崩壊量がコールドボックス中子より少ないため生型砂への混入が少なく、生型砂の品質に及ぼす影響が小さい。
  • 生型再生砂のRCSへの利用が容易である
    生型の余剰砂でも約800℃の煤焼と表面研磨によってRCSの骨材として利用できる。

2-2-2 欠点

  • 金型が必要
    高価な金型を必要とするため少量生産には不向きである。また、大物の鋳型を作ることは困難である。
  • 金型を高温に加熱する必要がある
    バインダーを硬化させるために金型を約250~350℃に加熱する必要がある。これにより様々な問題点が生じる。
  • 金型を加熱するためのエネルギーコストが高い。
  • 金型温度を均一にすることが難しく金型の変形が大きい。そのために鋳型のバリが発生したり寸法精度が悪くなることがある。
  • 金型の交換を迅速にすることができない。
  • 作業環境を悪化させる。
  • コールドボックス法に比べると造型速度が遅い
    金型からの熱伝達によってバインダーが熱硬化するため、内部まで硬化させるには時間がかかる。したがって、厚肉の鋳型、大物の鋳型には不向きである。
  • 軽合金鋳物での鋳造後の砂出し性が悪い
    コールドボックス法などに比べて鋳型の耐熱性が高いため砂出し性が問題となることがあるが、近年は軽合金用易崩壊RCSが開発されており改善されてきている。
  • 造型時に臭気を発生する
    有機鋳型共通の問題だが、造型時・鋳造時に不快な臭気を発生させ、作業環境を悪化させる。

【参考文献】
1)財団法人素形材センター「鋳型の生産技術」(第2版)(2002)