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誰でも分かる鋳物基礎講座

アルミニウム合金の時効熱処理と析出硬化(第3回)

東京工業大 精密工学研究所 先端材料部門
教授 里 達雄
2 アルミニウム合金の時効熱処理の基礎

2.1 各種熱処理(鋳造材および展伸材)

2.1.4 時効熱処理(熱処理型合金:鋳造材および展伸材)

(4) 鋳造用アルミニウム合金に関わる熱処理

 図4に鋳造用アルミニウム合金に関わる熱処理の目的を改めて示す。鋳造用アルミニウム合金においては均質化のために加熱処理が行われる。基本的には、鋳造・凝固合金に存在するミクロ偏析の解消や過飽和に固溶している溶質元素の析出をおこさせるためである。通常、自然時効(室温での時効)や人工時効(高温での時効)により,強度や延性を調質する。すなわち、析出組織をつくり出し、析出硬化を図る。そのために、溶体化処理,焼入れ処理,時効処理を行い,微細組織を創出する。
  図5にアルミニウム合金鋳物材の時効析出の特徴を示す。鋳物材では不純物元素を含め、多くの元素が存在し、非平衡な凝固組織となっており、また、鋳造欠陥が存在することも多い。これらは時効析出現象に大なり小なりの影響を及ぼす。すなわち、複数の原子間の相互作用(引力作用,斥力作用)、固溶度の場所による差異、異質核生成サイトの存在、また、原子空孔の消滅サイトの存在などの要因により時効析出現象は複雑に変化する可能性がある。これらについては、後述する。

 代表的な鋳造用アルミニウム合金であるAC4C合金(Al-Si-Mg系合金)の場合について時効熱処理を見てみる。AC4C合金の場合、溶体化処理で共晶Si相の形状変化がおこる。すなわち、不定形状のSi相は次第に粒状化あるいは球状化する。この変化は合金の延性、すなわち、破断伸びの向上にきわめて有効となる。溶体化処理温度が高過ぎると部分的に溶解がおこる。すなわち、局所融解現象(バーニング)がおこる。これは延性を低下させてしまうため避けなければならない。人工時効処理では時効温度および時効時間の設定が重要であり、これにより力学的性質は大きく変化する。一般的には、引張強さ、耐力、硬さなどが大きくなれば、伸びや衝撃値は小さくなる傾向にある。

 時効硬化型合金の時効熱処理では、通常はまず高温度に加熱して均一な固溶体とするために溶体化処理が必要である。しかし、鋳物用合金においては、しばしばこのような溶体化処理をしないで時効熱処理のみを行って性質の改善をはかることもある。この場合でも、鋳造の際には溶湯を急冷し、できるだけ過飽和固溶体とする必要がある。


図4 鋳造用アルミニウム合金に関わる熱処理(均質化処理,時効熱処理)

図5 アルミニウム合金の展伸材と鋳物材の時効析出の特徴