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誰でも分かる鋳物基礎講座

アルミニウム合金の時効熱処理と析出硬化(第10回)

東京工業大 精密工学研究所 先端材料部門
教授 里 達雄
3 時効硬化型アルミニウム合金の析出過程と時効硬化

3.5 各合金のGPゾーン、中間相および安定相

 代表的な析出硬化型アルミニウム合金において形成される種々のGPゾーン、中間相および安定相の形状や構造を表2にまとめて示す。すでに述べたように、また、表2に示すようにGPゾーンの形状は、Al-Cu:円板状、Al-Cu-Mg:棒状、Al-Mg-Si:板状または棒状、Al-Zn-Mg:球状となっている。
表2 各合金系におけるGPゾーン、中間相および安定相の特徴

 このように合金系によって形状が異なるのは界面エネルギーとミスフィット(界面での食い違い。溶質原子と溶媒原子のサイズの差による)に起因するものである。図37に示すように、ひずみエネルギーの点からは板状がもっとも小さくなるため、ミスフィットの小さい合金では球状の、ミスフィットの大きい合金では板状のGPゾーンが生成する15)。
図38に各種アルミニウム合金のそれぞれの準安定相の透過型電子顕微鏡写真を示す。各合金のGPゾーンの形状は前述のように、Al-Cu:円板状、Al-Cu-Mg:針状ないしは棒状、Al-Mg-Si:板状または棒状、Al-Zn-Mg:球状、となっている。このときに発生する整合ひずみは合金強化の点から重要である。
図39に析出相と母相との整合関係を模式的に示す。(a)は固溶体状態を示し、(b)はGPゾーンで、完全な整合関係を示す。(c)は中間相で、部分整合あるいは半整合の状態であり、(d)は安定相(平衡相)で、非整合の状態を示す。図で示すように、GPゾーンの場合に最も整合ひずみが大きくなる。
改めて、合金の時効析出の一般的な進行過程を図40に示す。溶体化処理後の急冷により過飽和固溶体が得られ、続いて、連続析出あるいは不連続析出により析出が進行する。特に、連続析出の場合には核生成-成長あるいはスピノーダル分解により時効析出あるいは相分解が進行する。また、準安定相として、GPゾーン(母相と整合)や中間相(部分整合、半整合)が形成され、最終的に安定相が形成される。これらの一連の変化に起因して、合金の硬さや強さが変化する。これについては次の項目で述べる。

図37 析出物の形状と整合ひずみの大きさの比較15)
図38 各準安定相の透過型電子顕微鏡組織(合金系により析出相の形態が異なる)
図39 析出相と母相との整合関係。(a)固溶体、(b)GPゾーン、(c)中間相、(d)安定相(平衡相)
図40 時効析出の一般的な進行過程

参考文献
15) F. R. N. Nabarro: Proceedings of the Royal Society A, 175, (1940), p519.