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誰でも分かる鋳物基礎講座

アルミニウム合金の時効熱処理と析出硬化(第7回)

東京工業大 精密工学研究所 先端材料部門
教授 里 達雄
2 アルミニウム合金の時効熱処理の基礎

(ⅲ)析出相変態

 (b)スピノーダル分解
 
核生成による析出に対して,これとは異なる析出の方式としてスピノーダル分解がある.スピノーダル分解では濃度の揺らぎが急速に発達して相分解が進行する.スピノーダル分解では核生成と異なり,障壁エネルギーは存在せず,原子の拡散により濃度ゆらぎが連続的に発達し,相分解析出がおこる.このような濃度ゆらぎは濃度波として振幅が増大する.このときの拡散は核生成-成長の場合とは異なり,濃度の低い領域から高い領域に拡散がおこる.これは逆拡散と呼ばれる.また,濃度波はある特定の波長で振幅の成長速度が最大となるため,微細な変調構造組織が形成されることが多い.

(c)不連続析出
 連続析出は結晶粒内に均一または不均一に析出がおこり,粒内において成長する場合であり,母相濃度は連続的に減少する.これに対して,不連続析出では結晶粒界上や近傍で析出が優先的におこり,次第に粒内に向かって成長がおこるものであり,析出の前後で母相濃度は不連続に減少する.不連続析出ではパーライト状のノジュールが形成される特徴があり,ノジュラー析出あるいはセル状析出とも呼ばれ,また,粒界移動を伴うため,粒界反応型析出とも呼ばれる.不連続析出の発達過程を図21に模式的に示す.図21(a)は過飽和固溶体であり,(Ⅰ)では不連続析出のみが進展する場合,(Ⅱ)では不連続析出と連続析出が同時におこる場合を示している.実際には,不連続析出がある程度進行した後に連続析出がおこる場合が多い.ノジュールは粒界の片側にのみ形成して成長する場合と,粒界の両側に形成して粒内に成長する場合とがある.ノジュールは母相と析出相で構成され,通常,析出相は安定相で,母相濃度も平衡状態まで低下しているが,析出相が準安定相であったり,母相濃度が平衡濃度より高い場合もある.ノジュールの成長は粒界拡散と粒界の易動度に律速されている.ノジュールの層間隔は合金組成や時効温度などに依存して変化する.

(ⅳ)析出反応速度
 析出の反応率(析出量の割合)の時間依存性は一般にJohnason-Mehl-Avramiの式によって記述される場合が多い.すなわち,析出の反応率をf),時間をtとすると,
  (22)
で与えられる.nは時間指数で,1~4程度の範囲で変化する.また,以下に示すようにKは反応速度定数で温度に依存する.これらのnおよびKより析出機構や析出の活性化エネルギー(障壁エネルギー)が評価できる.式(22)より,
  (23)
と変形し,を両対数プロットすると直線が得られ,直線の勾配および切片からnKが求められる.図22に反応率の時間依存性ならびに直線プロットを示す.Kの温度依存性は
  (24)
の関係で表わされる.従って,種々の温度についてKを求め,アレニウムプロットすると析出反応の活性化エネルギー Qp を評価することができる.
図21 不連続析出の発達過程
図22 核生成-成長における(a)反応率(析出量)の時間依存性
および(b)ln{1/(1-f)}-tプロットで得られる直線関係